アオマツブログ

青松輝(あおまつ・あきら)。短歌・批評など。Twitter:ベテラン中学生、YouTube:ベテランち。

ブンサイ!選評②

またしても遅くなってすみません。僕が選評を書くのが遅かったせいでさらに遅れてしまいました。選考はとても大変でした。関係者の皆さんにはご迷惑をおかけして申し訳なかったです。アットマーク以下は各応募者のTwitterアカウントです。

 

【最優秀賞】

好きだからつみたてNISAやめてほしい本当のことは川の中だから
(@mamibidden)

 「つみたてNISA」を「やめてほしい」とはどういうことだろうか。「つみたてNISA」は、国がやっている謎の制度で、使えば得をする、ということだけは皆なんとなく分かっている。そしておそらく同時に、うっすら皆が気持ち悪いとも感じている。「ふるさと納税」や「マイナンバーカード」なんかもそうだろう。

 上から降りてきて、使っておけば良いらしい、という制度だけがもっている怖さ。「好きだから」それを「やめてほしい」というのは勝手だが、「好き」な人にもその感覚を共有してほしい、という感情はよくわかる。

 下句「本当のことは川の中だから」の8−8の字余りも、その願いの強度を高めているように思った。たしかに「川の中」にはつみたてNISAはない。そしてこの歌では、「やめてほしい」と言ってしまう自分自身のことも相対化するような構えが、「川の中」が持っている、泥っぽく汚いニュアンスから見えてきている。それらのすべてが本当だと思った。

 

【優秀賞】

明日からも指輪つけたり外したりどの退屈も生者の権利
(@naaaaagi_31)

 他人の話を聞いていて退屈になったとき、たしかに指輪をつけたり外したりすることがある。あるいは結婚指輪なのかもしれない。指輪をつけたり外したりする動作はすごく単調で、退屈さを予感させる上では秀逸だ。

 そこから急に、抽象的な下句が出てくる。その切れ味がすばらしいと思って選んだ。「どの退屈も生者の権利」というフレーズはキャッチーだが、読みとるのは難しい。退屈な生の、その退屈を権利として楽しもう、という希望にも、この退屈すら味わうことのない死者、に対する失意にも、読むことができる。

 しかしやはり「つけたり外したり」というリズムからは、「指輪」の持っている、軽くて即物的なニュアンスが響いてくる。この歌はなにか制度のようなものに添いながら同時に反発もしている。それでこそ短歌だと思う。

 

【佳作】
車窓から見える雰囲気いい街の家にもきっとDV彼氏
(@rmn_glas)

 「DV彼氏」という言葉の短さと多重性に感心して採った。「車窓から見える雰囲気いい街」の中に、それと相反するような何か、を見つけるという考え方じたいは、短歌を書こうとする人にとってそこまで難しい発想ではないと思う。その上で、「DV彼氏」を選択できる、作者の容赦のなさに信頼を置きたいと思った。実際、どの街にもある程度の人数、DV彼氏はいるだろう。そしてそのDV彼氏にも、いい彼氏としての側面があるだろう。そのことはとてもリアルでしかも重い。


帰省で空っぽになった道、まるで自由な草原。確かめるように生きて何もわからず死んでいく。みんな原始時代みたいだね。 どっかで仕入れた朝焼けの原理、毎朝少し期待してる。誰かが笑えば、遠くで小鳥が泣いてる。みんな小さな神様みたいだね。 不屈の動物は美しい。抽象の絵画は美しい。全部誰かが説いたアナグラム。結局みんなして一括に生きてる。秩序のあしおとみたいだね。
(@lilan__upto)

この選考では短歌以外のものもひとつ佳作に入れることが望まれており、たくさんの作品の中から苦労して選んだ。自分の不勉強で選考は難しかったが、この作品を入れた。「秩序のあしおとみたいだね。」という一節は本当だと思ったからだ。


算段が散弾になり冗談になるから雪がパリになるから
(@springizumi78)

この応募者はTwitterアカウントが消えていて、選考の対象外だったのだが、この歌のことをどうしても書きたいと思ったので佳作に入れた。算段が散弾になる、というのはおかしい。散弾が冗談になる、というのもおかしい。雪がパリになる、というのはもっとおかしい。でも僕には、これまでに自分が目にしてきた、算段と、散弾と、冗談が、たしかにこの歌に書かれているように思ったし、下句を読んだ瞬間に、雪のなかのパリを(なぜか)想像してしまった。ことばを書くこと、そのポテンシャルは、この想像であり、作者はその想像を、読者に全力で強要することにためらいがない。あなたの頭の中を今よぎったこの「パリ」は本当だと思う、僕は本当のことしか読みたくも書きたくもなかった。